ストーカーを通してみる現代の男女関係(同性愛の場合は同性関係)について述べてきた、全体の補足としてストーカーを見抜くためと言われるチェックリストについて述べます。
チェックリストについては、ストーカーの心理類型について、特にDSMの基準を出す際の意義の一つにチェックリストを検討することが含まれると既述したように、チェックリストを示すというよりも、チェックリストをチェックするといった意図で述べます。 まず、岩下久美子著『人はなぜストーカーになるのか』より、“ストーカーを見破る十か条”を一部(①~⑩それそれの解説文)要約して引用します。 “そもそもストーカーは一つの社会病理であって、精神科医による「診断名」ではないのだ。中略。私がここにピックアップした内容は、精神医学的なチェックリストではないし、また、そういった類のものとはまったく違うの目的のものである。以下にあげる様々な行動パターンは、ストーカー像を把握し、理解するための一種の手がかりである。” ①初対面の人にも「自分史」を話したがる。 あって間もないのに、こちらが聞いていなのに自分の身の上話を一方的に話す。 ②筆まめ。 様々な形態で手紙(メール)を出す。内容は、自分に関することが多い。 ③電話機。 狙った相手と連絡を途絶えさせない。 ④人によくカマをかける。 人を信用できない不安から、相手を試すような言動をとる。 ⑤親しくもないのに、突然、高価な贈り物を押し付ける。 自分の所有物だと分かるようなはっきりした形、目に見えるものを贈る。 ⑥対人評価がころころ変わる。 対人関係の距離が上手く取れない、長続きしない。 ⑦敵・見方を区別したがる。 デジタル思考。YES・NO、白黒、全無。 ⑧怒り出すと止まらない。 自分の思い通りにならないと物凄い剣幕で怒り、コントロールできない。 ⑨人並み以上に情報に敏感。 流行ものが好きで、あきっぽい。 ⑩案外、仕事ができる。 マメで、切り替えが効き、粘り強い、自己アピールができる。 さて、一見して分かるようにこれは境界性・自己愛性パーソナリティ障害のDSM基準が混ざったものです。 これは、岩下さんが被害者・加害者への取材から抽出したものですので、日本のストーカー規制法の定義のように拒絶型(の一部)や求愛型に限定され、それ故に、拒絶型や求愛型の中心的な心理類型である境界性・自己愛性パーソナリティ障害の特徴が現れたと解釈して間違いではないでしょう。 ということは、憎悪型や略奪型は切り捨てられているということ、思想的に全体から切り離されている(今まで犯罪とされない・できないことが、なぜ犯罪となったのか?犯罪とすることがどういったことを意味するのか?が問われていない)ことです。 これを含め、岩下さんのストーカーの背景の分析はやや乱暴な観が否定できないと、考えます。(“体感ストーカー”やその表層の分析に揺れ・偏りがある。) つまり、これまで述べてきたように、ストーカーを法規制することには、それを支える思想の導いたパラドックスがあることを看過されている、表面的な現象をつなぎ合わせて終わっていると考えられるのです。 次に、春日武彦著『屈折愛』よりストーカーのチェックリストについての春日さんの評価“ストーカーを見破る「鑑別法」はないのか?”を含めて要約・引用します。 チェックリストとして雑誌に掲載されたのもについて述べられているので、まず、そのリストを孫引きします。 『ダ・カーポ』1996・12・18号 ①一件自信満々に見えるが、つきあってみるとどこかいつも不安気な感じ。 ②いつも自分のことだけを話したがり、相手の話は関心がない。 ③「どうしてそんなに!」と思うよなことで激しく怒る。またその怒りが長い間、持続する。 ④気の毒な人、立場の弱い人をネタにしたブラックユーモアで笑いをとろうとする。 ⑤何かしてもらっても感謝せず、「してもらって当たり前」的な態度がほの見える。 ⑥慕ってたはずなのに、何かの弾みで急に悪口を言い出す。 ⑦何となくとっつきにくく孤立した印象があり、付き合い方が難しい。 ⑧親しくもないのによく電話をかけてくる。「たいした用事はないのに・・」と違和感が残る。 ⑨服装や髪型がいつもスタイリッシュにきまっている。 ⑩「あの時はどこに行っていたの?」と実にさりげなく聞くが、こちらの言うことを信じておらず、時間をかけて同じことを聞く。 YES10~9:ズバリ YES8~6:かなり危険 YES:5~4:注意 YES:3~0:多少 『週間朝日』1996・11・8号 ①プライドが高くナルシスト ②流行の服を着るのが好き ③自分のことを話したがる ④怒りだすと止まらない ⑤毀誉褒貶が激しい ⑥友達が少なく、つきあいが長続きしない ⑦かつて好きだった人を極端に嫌う ⑧昔の些細な出来事を覚えている ⑨よく人にカマをかける ⑩拒食症や過食症の傾向がある 6つ以上:要注意 特に③と⑨が両方該当する人は「かなり危険」 『プレジデント』1996・7号 ①『ライ麦畑でつかまえて』を愛読している。 ②おしゃべり(相手の話を聞く耳は持たないで、自分のことだけ) ③質問に対して簡潔に答えない。 ④筆まめ。(②とも通じるが、内容は自分のことばかり) ⑤自分の写真を持ち歩く。(好き相手の写真も欲しがる) ⑥とことん相手に執着する歌が好き。 ⑦いきなり貴金属をプレゼントする。 ⑧携帯電話を手放せない。 ⑨相手をテストしたがる。(他人が信用できないので、わざと相手を試す) ⑩情緒不安定で、衝動的な行動が多い。(ことに日本酒を飲んだときにキレやすい) これらについての春日さんの評価ですが、パーソナリティ障害のDSM基準との比較から『ダ・カーポ』のリストは“このチェックリストはボーダーライン人格障害と自己愛性人格障害とが重なり合ったあたりにストーカーの病理が潜んでいる、との前提に立って作成されているように見える。そういった意味では、妥当性が高いとは思われる”と一定の秒かをしているます。 しかし、“チェックしてみたら満点であった人物がいた場合、だからいって注釈にあるとおり「ズバリ、彼はストーカーです」と言い切れるものなのか”とリストの存在自体に疑問を呈しています。 さらに、“精神医学にせよ心理学にせよ、これらの学問は基本的に「後知恵」といった性格をもつ。中略。理解と説明のための学問なのであり、予言や予測のための学問ではない。”とリストによる事前判別に精神医学・心理学を用いることを否定しています。 そして、“10項目のチェックだけで隣人をストーカーと断定してしまうようなテストが平然と横行する世の中にも問題が潜伏している”と社会全般の問題を指摘しています。 『週刊朝日』のリストについては、③については妥当性を認めるが、⑨は単一の現象を過剰評価しているとしています。また、⑩についても無理があると否定的です。 『プレジデント』のリストについては①⑥⑧に否定的です。 結論として、“三種のチェックリストが、結局のところ「一斑を見て全豹とトす」といったまことに乱暴な方法論の実践となってしまっているところに、胡散臭さを覚えてしまう。チェックリストという形式を借りて好奇心に働きかけるための「覗き見装置」でしかあるまい。”とリストの存在自体を疑問視し、“我々の内なるストーカー的心性は、たとえストーキング行為として発露することはなくとも、チェックリストといったものに飛びつくことによってその存在が示唆されるのである。これこそまさにパラドックスではないか。”と述べてあります。 さて、重複しますが、これらの三種のリストもパーソナリティ障害のDSM基準と重なることは理解されますので、ストーカーをパーソナリティ障害と同一視している傾向があり、是認できるものではありません。それは、このようはリストの形でなくとも、パーソナリティ障害のDSM基準を挙げたり、特徴を抜き出すことで済ませている場合も同様です。 やはり、ここでもストーカーの法規制が持つ歴史的・思想的な背景から切り離されてしまったことが大きな原因となっていると考えられます。 また、DSMを中心として、精神医学・心理学自体の弱みが認識されていないことも言えるでしょう。 それは、一冊の本でこれらの全てに触れることは物理的に難しいということと同時に、自分の使う道具にけちをつけて説得力を削いでしまう、曖昧さ複雑さが読んでいて気持ち悪いことから、編集されたことが多分にあったことによると思われます。 ストーカーの分類の必要についてで述べたように、ストーカーは分類が困難なほど多様です、と言うことは、分類をせずにストーカーを述べることは不可能であり、許容できないほど乱暴なことです。 そこに現れるのは、春日さんの指摘の通り、その言論を消費する側の問題です。 このブログの記事で言えば、“体感ストーカー”という問題です。 “体感ストーカー”については以前の記事に詳述していますので繰り返しませんが、チェックリストはそれを使う側をチェックする方がストーカーをチェックするよりも有効だと言えるでしょう。 次回ストーカーの被害者になったら。に続けて、ストーカーの被害者と加害者、被害者になった場合の対処について、特に法的対処をめぐる問題について述べます。
by sleepless_night
| 2005-08-28 15:41
| ストーカー関連
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