2005年 07月 15日 ( 1 )

ストーカーとは何か?/ストーカーって一つじゃないの?

 前回ストーカーとは何か?/騒音オバサンと野口英世でストーカーの定義とその定義を使った熱心な片思い行為との線引きについて述べました。今回は、ストーカーの分類について主に述べます。
 話を進めるまえに、定義を振り返り、分類以前の共通点を確認しておきたいと思います。

 定義には二つ、法律の定義とそれ以外の定義を出しました。
 法律の定義はストーカー行為規制法二条の要件を、それ以外の定義については三人の定義をまとめたものをだし、その違いはそれ以外の定義の要件②である妄想・幻想であることを述べました。
 そして、熱心な片思いとストーカーの線引きとしても、その要件を用いて、その行為者が相手側の出したメッセージによって思考・行動を修正できるか否かがポイントであると述べました(法律の要件は満たしても、法律による行政の対応を申請するか否かのポイント)。

 又、ストーカーは規正法が示すように恋愛感情・好意の感情に関係した行動であると日本では限定されているが、もともとはハラスメント(嫌がらせ)というそれまでの法律では規制されなかった行為が、権利意識の拡大によって法律によって規制の対象となったものの一部であることも述べました。

 以上、前回の記述をまとめてみますと、ストーカーとは幻想・妄想によって為される嫌がらせ行為であることが理解されると思います。
 ストーキング(ストーカー行為)には、このことから特徴的な行動傾向があると考えられます。
 それは、妄想・幻想に基づく故に、定義にある執拗・反復性に加えて、思考・行動が激化する傾向と、相手を支配(所有)しようとする傾向です。
 この共通点に立ち、ストーカーの分類を述べたいと思います。
 
 でも、なぜストーカーの分類が必要なのか?そもそも分類は可能なのか?という疑問点もあります。
 ストーカーの分類の必要性は、ストーカーと呼称される存在が単一の名称でくくられることが危ういほどに多様であるため、分類をしないと分析もそれを通じた理解もできないからです。
 被害者との関係、加害行為の種類、期間、激化の程度・可能性、原因となったストーカーの性質、ストーカーの育成環境、生活環境など多様であり、理解するためには、それらを収集されたデーターから読み取り、特徴付けて分類しなくてなりません。
 ストーカー関連の書籍でも、分類に対するスタンスはかなり消極的なものです。
 それは、必要であるが、分類が困難だからです。
 “現状におけるストーカーについての分類化・分析は精神科医によってもまちまちであり、多様である”(岩下)、“ストーカーの行動は予測不能というのがむしろ一つの特徴ですから、その行動を統計的に分類をしていくのは非常に難しい作業となります。中略。類型に当てはめることでかえって被害者に先入観を持たせてしまうことにつながり、その結果被害を大きくする可能性もある”(高畠・渡辺)。と言ったような慎重さが分類する側にはあります。
 そもそも、ストーカーの研究のための分類は、“特定の専門家や個人の目的、理論的関与から生じた様々な優先項目による”(ミューレン・パテ・パーセル、共著、※)、つまり、誰が、どんな集団を対象に、どのような目的で、分類をしたかによって異なります。
 分類を一番初めにしたのは、1993年にゾーナほかがロサンジェルス市警の事例研究を元にストーカーの動機・被害者との関係を軸に、色情狂・恋愛脅迫症・単純な脅迫症状の三つに分類したものです。これは精神分析学(※1)と司法制度の二つの観点に立ち、分類にあたってDSM(アメリカ精神医学界の発行している精神障害の診断マニュアル)を標準にしたものです。
 以降、1995年のハーモンらによるニューヨーク刑事・最高裁法精神医学クリニックの紹介した被験者を基に被害者とのつながり方・かつての関係のあり方の視点からの分類。
 1996年のライトらによる、被害者から提供された48項目のチェックリストに基づく、被害者との関係・動機などによる分類。
1997年のキーレンらによるストーキング罪公判の被告人精神分析を基にした精神病か日精神病かという二分類。
1999年のミューレンらが、自身のクリニックへ裁判所・医療関係者から回されてきたストーカー、自ら来院したストーカーの精神分析を基に、動機とストーキング発生状況と被害者との関係の二つの観点から5つへの分類。
と、分類法が現れているますが、分類の意味が一定しないこと、データーの収集の問題などから、確立した分類はないと考えられています。
 日本での市販の書籍でも、古典的・現代的(春日)、関係類型と心理類型のクロス(福島)
精神病と非精神病(岩下)、目的自体のストーカー・手段としてのストーカー(小早川)、被害者との関係と心理類型(高畠・渡辺)とそれぞれの立場や目的で異なった分類が提供されています。
 
 さて、この分類の混乱状況からどれを選択するかというと、行為・関係類型を1999年のミューレンらの分類から、心理類型はほぼ全てが同様なので代表的な福島章(上智大教授・精神科医)による五つの分類を採用したいと思います
 ストーカーの行動や被害者との関係、そのどちらに偏って分類しても具体的な事例への適応が簡単ではあっても実効性や分類としての効果が低いこと(福島説は関係に重点が置かれすぎに感じます)、さらに、心理分類だけでは単なる後付の分析で終わってしまうこと、分類の当てはめ自体が困難であることから、双方を補う形で併用し、二つの分類軸をクロスすることで許容範囲の妥当性を確保できると考えるからです。
 具体的な分類を以下、挙げます。
 [行為・関係類型]
 ①拒絶型:一定以上の親密さのあった関係(親子・夫婦・恋人・親友・長年の同僚・取引相手・医師患者・教師生徒など、親密さが相当の年月によって形成されていた関係)が壊れた時の生じるストーカー。
 ②憎悪型:拒絶型ほどの親密さの無かった関係の相手、若しくは、殆ど知らない他者に対して、相手を恐怖・混乱させたい欲望から生じるストーカー。
 ③略奪型:自己の性的妄想を満たすための対象をストーキングするタイプ。
 ④親しくなりたいタイプ:相手と相思相愛の関係を築きたいとの一方的な意図から生じるストーカー。
 ⑤相手にされない求愛者タイプ:社交技術・求愛の技術が著しく低い、若しくは、男性性を過剰に持ち出すことから生じるストーカー。
 おそらく、④⑤が日本で一般的に想起されるストーカーでしょうし、ストーカー規正法が念頭に置いたのも④⑤、加えて①でしょう。特に、②はまったくストーカーとして認知されてない存在、前回述べた奈良の騒音オバサンが当てはまるタイプでしょう。

[心理類型]
 (1)精神病系:統合失調症などの明らかな精神医学の治療対象。犯罪を犯しても、責任阻却(刑法39条)されるタイプ(※2)。
(2)パラノイド系:責任阻却される可能性のある妄想障害があるタイプ。
 (3)非精神病系:人格障害などの、精神医学が治療対象とするか意見が分かれるタイプ。責任阻却されず、一般と同様に処罰対象になる。
  (3-1)境界性
  (3-2)自己愛性
  (3-3)反社会性
     へと、さらに分類される。
 
 ここから先、行為・関係類型と心理類型のクロスをする前に、心理類型について前提を述べておかなくてはなりません。
 以前、コンプレックスでも触れた心理学(精神医学)、特にDSMとの関係で前提抜きに話をするめるのは危険すぎると考えるからです。
 尚、次回ストーカーとは何か?/ストーカーの心理を問う前にでも触れますが分類はあくまでも分析と理解のためであって、差別と排除のためではありません
 ストーカー規制法を始め、刑事法、そのほかの法的措置の対象となっても、日本の刑事政策の基本は更正です。応報ではありません。

※)『ストーカーの心理』(サイエンス社)P・E・ミューレン、M・パテ、R・パーセル共著、詫摩武俊監訳、安岡真訳 分類の歴史は同書の4章に拠っています。
 (福島)=福島章 著 『ストーカーの心理』(PHP新書)
 (岩下)=岩下久美子 著 『人はなぜストーカーになるのか』(文春文庫)
 (春日)=春日武彦 著 『屈折愛』(文春文庫)
 (高畠・渡辺)=高畠克子・渡辺智子 著 『ストーカーからあなたを守る本』(法研)
 (小早川)=小早川明子 著 『あなたがストーカーになる日』(廣済堂出版)
※1)精神分析学は、心理学の一つの分野・学説で、フロイトによって創始され、現在にいたるまで多くの分析家を輩出し、修正を重ねてきた。日本仏教でたとえると、天台宗の比叡山のような存在。
※2)刑事法では、基本的に、その犯罪とされる行為が、該当する条文から読み取れる要件を満たすこと、その行為が条文が示す刑罰から見て処罰するほどのものか、そもそも行為者は行為の意味を認識していたか、という3つを満たしていないと処罰できません。
 このうちの最後の、行為の意味を認識していたか(自分の行為を認識していたか)がないと、行為への刑事責任を問えない。このような場合に責任が阻却されたといわれます。   
 
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by sleepless_night | 2005-07-15 00:11 | ストーカー関連