2005年 07月 23日 ( 2 )

ストーカーの心理/人格障害編 PART1

 いよいよ、ストーカーの心理類型の本番ともいえる非精神病系に入ります。
 精神病系は、境界性・自己愛性・反社会性と三つに分類してあることでも分かるように、人格障害という精神疾患を持つ人がストーカーとなった場合を指しています。
 “最強のストーカー”(福島)、“現代的ストーカー”“ストーカーの内面を理解するためのモデルとして最も適切”(春日)、“ストーカーの中核となりうる人たち”(岩下)、“ストーカーもストーカー的人物も、精神的虐待行為をするような加害者は人格障害であることが圧倒的に多い”(小早川)、“精神病系以外の3グループに関しては、精神医学において人格障害という診断”“ストーカーの心理背景には、人格障害という様相が深く関わっていることを指摘しておきます”(高畠・渡辺)
 とストーカー関連の書籍でも人格障害について非常に重点を置いてあります。
 以前も、述べましたように、殆ど人格障害の解説書になってしまっているものまで見られるほどですし、ストーカーを見破るチェックリストと言ったものには人格障害の診断基準を混ぜて書き直したようなものがあります。
 
 さて、このストーカー問題で重視される人格障害について詳しい話へと入る前に、以下のことを述べておかなくてはなりません。(わけの分からない名称が多く出てきますが、とりあえず述べる趣旨はご理解いただけると思いますし、細かい話は措いて、太字だけ押さえて頂いてれば十分です。) 
 ストーカーの定義(ストーカーとは何か?/騒音オバサンと野口英世)でも述べましたように、熱心な片思いとストーカーを線引くものは、行為者が相手側の出したメッセージによって思考・行動を修正できるか否かだと考えるので、ストーカーとして法律の適用や措置を採ることを勧める場合、ストーカーには重軽の程度の差はあれ妄想があると考える、精神病や人格障害がある可能性が高いと考えるのは妥当でしょう。
 しかし、繰り返しますが、原因として精神病や人格障害があることと、精神病や人格障害を持つ人が高い確率でストーカーとなることは同じではありません。 
 前回ストーカーの心理/解説編 精神病系・パラノイド系 で述べたように、精神病を持つ人の全ストーカーに占める割合は0.6%です。
 それでは残りは、非精神病系となり、人格障害だと考えられるのだから、人格障害を持つ人はストーカーとなる可能性が高いのではないかと思うかもしれません。 
 しかし、人格障害を持つ(持つと考えられる)人の数は膨大です。
 正確な数字はありませんが、磯部潮(精神科医・臨床心理士・東京福祉大教授)は日本人の約500万人が何らかの人格障害をもっているのではないかと推定をしています。(※)アメリカでも約1000万人が持っていると推定がありますので、人口比から一致します。
 又、DSM-Ⅳ-TR(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第四版改訂版)では、人口における人格障害各分類の有病率について以下の数字を出しています(人格障害は10分類あります)。
 妄想性人格障害:0.5~2.4% シゾイド人格障害:不明 失調性人格障害:3% 反社会性人格障害:3~4% 境界性人格障害2% 演技性人格障害:2~3% 自己愛性人格障害:2~16% 回避性人格障害:0.5~1% 依存性人格障害:不明だが多い 強迫性人格障害:1% 
 一人の人物で重なって診断される場合もありますので、総計でどの程度かは不明ですが、少なくとも日本にも100万人単位で持っている人がいると考えられているのが、人格障害という疾患です。 
 ストーカーは警察統計でも年間一万数千人です。しかも禁止命令や警告などの強制力を伴う措置を生じさせたのは、一千数百件です。この統計にカウントされていない被害があると考えるのは当然ですが、そうだとしても人格障害を持つ(持つと考えられる)人たちの全体の人数と比較してみれば、人格障害⇒ストーカーと考えることが不当で偏見によるものであるのは理解されると思います。(※1)
 さらに、人格障害を持つ(と考えられる)人は女性が男性の2~3倍だと言われている(※2)のに対して、ストーカーは男性が8~9割を占めています。このことからも、人格障害を持つことと、ストーカーになることは同じではないと理解できると思います。(但し、男性はストーカーの多数を占めるのに、人格障害では少数派であるのなら、人格障害をもった男性がストーカーとなる可能性は高いのでは?とも考えられます。しかし、人格障害が百万単位の人数であるに対して危険なストーキングを行い強制力のある措置を取られた人が一千数百人なのには圧倒的な差があります。理論上は相対的に高くなりますが、全体を見れば可能性が高いとは決して言えません ※3)
 加えて、DSMというマニュアルについての話(「ストーカーの心理を問う前に」)で述べましたように、人格障害自体を診断のマニュアルに入れること、人格障害という診断に根拠を与えるようになったこと自体に大きな疑問を寄せられています。
 人格障害は精神分析学という心理学の一分野の影響を強く受け成立した歴史もありますので、精神分析学自体への疑問点も同様に意識されなくてはなりません。
 また、何か問題を起こした人、犯罪を犯した人、などに精神病や人格障害というレッテルを貼ること、精神医学(や心理学)という学問によってお墨付きを与えることで、「私達とは別の人間で、私達とは関係ない人たちだ。」との印象を与え、「心の闇」と呼んで、呼ぶ側の安心感を維持しようとする傾向が見られます。
 人格障害はその概念自体に疑問を投げかけられ、また、人格障害という診断が妥当なものだとしても当てはまる人の多さから特殊な問題ではない、非常に一般的で日常的な視点を必要とする(わが身に引き寄せて考える、自分もそうかもしれないと考えるべき)ものだと言えると思います。このことについては詳しく、ストーカー問題についての一連の帰結で述べます。
 
 では、ストーカーの心理類型の(3)非精神病系について述べます。
 今回も前回同様にDSMの診断基準を引用します。これは、繰り返しますが、ストーカーの分析・理解のため、特に人格障害の診断基準はストーカーを見破るチェックリストとの比較をしていただく際に必要であることから引用を出すのであって、差別や排除の道具ではありません。また、注に提示した資料に基づいた記述ですが、医療情報ですので、参考に止めてください。
 さらに、前回も出しました注意書きを再度提示します。
 “DSM-Ⅳは、臨床的、教育的、研究的状況で使用されるよう作成された精神疾患の分類である。診断カテゴリー、基準、開設の記述は、診断に関する適切な臨床研修と経験を持つ人によって使用されることを想定している。重要なことは、研修を受けていない人にDSM-Ⅳが機械的に用いられてはならないことである。DSM-Ⅳに取り入れられた各診断基準は指針として用いられるが、それは臨床判断によって生かされるものであり、料理の本のように使われるためのものではない。中略。このマニュアルに含まれる診断基準を有効に適用するためには、各診断基準群に含まれている情報を直接評価できるような面接が必要である”(序・臨床診断の活用より)

(3)非精神病系
 先程から長々と人格障害と述べてきましたが、どうしてこれが非精神病なのか?と疑問に思うでしょう。
 精神病という言葉自体も幾つかの使われ方の違いがあり、それに対して「非」というのですから、非精神病という言葉にも違いが出てきてしまいます。
 大雑把になってしまいますが、どうして非精神病と言われるかというと、それが人格の障害だからだと考えられます。つまり、病気というのは、病気になった人には健康な状態、病気ではない状態があり、それがその人の通常の状態ですが、人格障害を持つ人の場合は、そうではなく、人格障害を持った状態こそがその人の通常の状態だと考えられるのです。
 したがって、病気とは呼ばないと考えられるのです。
 では、人格障害とは何か?
 DSMは“その人の属する文化から期待されるものから著しく偏り、広範でかつ柔軟性がなく、青年期または成人期早期に始まり、長期にわたり安定しており、苦痛または障害を引き起こす、内的体験および行動の持続的態様”としています。
 分かりやすく逐語で説明しますと、人格とは“環境と自己に関する知覚、関係、および思考の永続的な様式”とDSMは定義しています。つまり、成長し・経験をする中で作られてきたその人の性質を「人格」と呼んでいると考えられます。ですので、人格障害は基本的に18歳以下の人には診断されません(※4)
 そして、その「人格」に「障害」があるとは、その「人格」の持ち主が生活する環境で重大な軋轢を頻繁に起こし、その人自身も苦痛である程の場合を指していると考えられます。
 まとめますと、著しく偏った思考や行動の為に生活で軋轢・支障が生じさせ苦痛を持つ人が人格障害を持っている人だと言えると考えます。
 但し、二つ注意点があります
 一つは、「人格」という日本語だと、思考や行動の偏りの為に軋轢・支障をきたすという現実的な問題以上に、その人の道徳的・倫理的な側面にまで踏み込んで「障害」があると見做される恐れがあるので、以下、「人格障害」ではなくパーソナリティ障害とします。DSMもこちらを採用しています。
 二つ目に、上記の定義を読んで頂いて理解されると思いますが、パーソナリティ障害、つまり、「偏っている」か否かという判断はその人の生きる社会状況・時代に大きく依存します。一つ目の注意点で述べましたことと関係しますが、パーソナリティ障害とは、パーソナリティ障害を持つ人の内面ではなく、その人と周囲との関係の問題に重点があると考えらるのです。但し、いかなる状況・時代であっても軋轢・支障をきたすようなパーソナリティには共通性が見られるとは考えられます。それでも、パーソナリティ障害だとの判断には非常に幅や曖昧さは認めざるを得ないと思います。

 パーソナリティ障害の原因は特定されていません。
 遺伝との関係も指摘されています。人格障害という概念自体が精神分析学の影響で生み出されていることとも関係して、その人の育成環境に注目する説もありますが、この説をとっても家庭だけを指すことは不可能で、広く社会全体の環境を問題にされます。また、脳内物質のアンバランスさや神経系の障害との関係も考えられています。どれか一つというのではなく、複合的な要素が相俟っていると考えるのが妥当なようです。(※5)

 パーソナリティ障害は前述したように10分類に分かれます。
 この10分類は3群に分けられます。
 奇妙で風変わりなことが多いA群:妄想性、シゾイド、失調性
 情緒的で移り気に見え、行動予測が困難なB群:反社会性、境界性、演技性、自己愛性
 不安や恐怖を感じているように見えることが多いC群:回避性、依存性、強迫性
 
 このようなパーソナリティ障害の全般的(個々の分類ではなく、パーソナリティ障害という大本の分類かの)診断基準を以下に引用します。

A.その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った、内的経験および行動の持続的様式。この様式は以下の領域の2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。
(1)認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)
(2)感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)
(3)対人関係機能
(4)衝動の制御
B.その持続的様式は柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。
C.その持続的様式が、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な療育における機能の障害を引き起こしている。
D.その持続的様式は安定し、長期間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。
E.その持続的様式は、他の精神疾患の表れ、またはその結果では上手く説明されない。
F.その持続的様式は、物質(例:薬物乱用、投薬)または一般身体疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理学的作用によるものではない。
 
 おそらく、この全般的診断基準で大体のイメージはつかめると思いますが、具体的には難しいでしょう。
 この診断基準にもあるように、人格障害との診断は他の精神疾患では説明できないものであるので、その他の精神疾患について知らないと判断できません、また、診断にあたっては長期に渡る評価が必要とされるので、即断できるものでもありません。

 次回ストーカーの心理/人格障害編 part2にストーカーの心理分類(3)非精神病系の-1)-2)-3)の個々の解説を出します。
そちらの方がストーカーの心理分類としての具体的イメージが持ちやすいでしょう。

※)『人格障害かもしれない』(光文社新書)磯部潮著
※1)警察の統計ということは、ストーカー規正法の定義のように、恋愛・好意感情という限定がかかりますが、ストーカーの加害者の8~9割が男性であることは海外でも同様です(『ストーカーの心理』ミューレンら共著)すので、比較として妥当だと考えます。
※2)『境界性人格障害のすべて』(ヴォイス)J・J・クライスマン、H・ストラウス著 白川貴子訳 星野仁彦監修
※3)これはあくまでも統計という数字上の問題を使って、いかに精神病や人格障害とストーカーを同一視することが間違ったものかを示すための記述です。ストーカー被害を甘くみたり、ましてやその一件一件を軽く見ているのではありません。たとえ、ストーカー被害が一件しかなくとも、その一件を受けた人にとってはそれが全てです。ほかがどれ程少なくとも関係はありません。 それでも、精神病や人格障害は偏見を伴いやすく、まして犯罪者がそうだった場合、全体が危険だと見做される恐れがありますので、このように述べているのです。
※4)18歳以下の場合は一年以上の特徴の持続がないと診断しない。さらに、反社会性パーソナリティ障害は18歳以下では診断を下せない。(『DSM-Ⅳ-TR』)
※5)『境界例と自己愛の障害』(サイエンス社)井上果子 松井豊共著 
  『パーソナリティ障害』(PHP新書)岡田尊司著
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by sleepless_night | 2005-07-23 23:00 | ストーカー関連

ストーカーの心理/解説編 精神病系・パラノイド系 

 今回は、ストーカーの心理類型についてです。
 DSM(『精神疾患の診断・統計マニュアル』)についての解説を挟みましたので、ストーカーの分類について再度挙げておきます。詳しくは以前の記事をご覧下さい。分類を使用するにあたっての重要な情報も含まれておりますので、ご覧になっていない方は是非とも目を通して頂きたく思います。
 ストーカーの分類については多くありますが、その中でも行動・関係類型についてはミューレン(※)らの分類から、心理類型については福島章(※1)説を採用します。
 行為・関係類型とは、ストーカーと被害者との関係とストーカーの行為を焦点にした分類で、この分類がないと具体的事例への当てはめに不便で、実用的な分類として勝手が悪いものとなると考えられます。
 心理類型とは、ストーカーがストーキングという犯罪行為をするに至った心理を焦点に分類するもので、これによってストーカーの理解や治療、ストーカーへの対処が理解できると考えられます。
 この二つの類型を組み合わせることで、ストーカー問題を総体的に分析・理解することができると考えます。
 後者、心理類型について個々の類型の解説を述べ、その後で、二つの類型を組み合わせを提示する予定です。

 さっそく、話を進めます。
 福島説では、心理類型を
 (1)精神病系
 (2)パラノイド系
 (3)非精神病系 -1)境界性 -2)自己愛性 -3)反社会性
 と大きくは3類型、全部で5類型とします。
 
 この一つ一つを解説するということは、必然的に、医療情報を示すことになります。
 そして、前回述べましたように、これから示す情報はDSMに大きく頼ります。
 参照するDSMは最新のDSM-Ⅳ-TR(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第四版新訂版)です。(※2)
 はじめに、DSMからの極めて重要な引用をします。
 “DSM-Ⅳは、臨床的、教育的、研究的状況で使用されるよう作成された精神疾患の分類である。診断カテゴリー、基準、解説の記述は、診断に関する適切な臨床研修と経験を持つ人によって使用されることを想定している。重要なことは、研修を受けていない人にDSM-Ⅳが機械的に用いられてはならないことである。DSM-Ⅳに取り入れられた核診断基準は指針として用いられるが、それは臨床判断によって生かされるものであり、料理の本のように使われるためのものではない。中略。このマニュアルに含まれる診断基準を有効に適用するためには、各診断基準群に含まれている情報を直接評価できるような面接が必要である。”(序・臨床判断の活用 より)
 この引用を理解して頂ければ十分だと思いますが、これから提示しますDSMの基準は、ストーカーの分類と、それを通じた理解の為に不可欠だと判断するので引用を示すのであって、それぞれの診断を振りかざして他者を病気呼ばわりするためのものではありません
 重ねて、DSM基準を提示する意味を確認させていただきたいと思います。
 以前も述べましたように、精神医学(を含む心理学)は大変に危険なものだと言えると考えます。肉体の病気や障害を素人判断で診断したり治療したりすることの危険は一般的に理解されていると思いますが、心理学はある種の親しみがあるために危険性を看過されているように思います。
 心は見えませんし、触れません。ですから、切っても切れませんし、血も出ません。
 しかし、その反面で、心を傷つける、普段意識しない部分まで探りを入れると、思わぬ動揺や深刻な痛手を負うことがあると考えられます。
 ですから、例えば心理学の一分野である分析心理学の専門家としての資格、分析医(医と付きますが、必ずしも医者ではありません。分析心理学の理論を使った心理療法を行う資格があると言う意味の医です)を取得するには教育分析という、治療者となる人自身が長期の分析を受けなくてはなりません。治療する側は自分の心理を十分に把握しておかないと、患者の心理に巻き込まれて、治療者自身がダメージを受けたり、治療で深刻な間違いを犯す危険があるからです。
 では、この様な危険な存在は触れるべきではないのでは?と疑問に思うかもしれません。
 当然です。
 しかし、これも以前述べましたが、恋愛、結婚などの男女関係(同性愛の場合は同性間)
について、性という分野の話をするに当たっては避けることができません。心理学はこの分野に限らず、それが登場した時から、社会思想に多大の影響を与えてきました。そのことからも分かるように、心理学は分析・理解にとって非常に切れ味の良い刀だといえます。切れ味の鋭い刀は、扱いを間違えると相手は勿論、自分までも大きく傷つけます。

 ですから、過剰なほどの注意を喚起させていただいて上で、この魅力的だが危険な道具に触れたいと思います。
 尚、注などで提示した参照資料に基づいた既述ですが、医療情報ですので、あくまでも参考の範囲に留めてください。

 心理類型の(1)精神病系について。(※3)
 “統合失調症(原文・精神分裂病)などの精神病が発病しており、その症状の一つである恋愛妄想、関係妄想などがストーキングの動機となるケース”(福島)
 統合失調症とは、妄想・幻覚を伴い感情・思考の調和やまとまりを維持できなくなる症状の精神疾患で、社会的・職業的機能の著しい低下が伴います
 19世紀後半のドイツの精神科医E・クレペリンが様々な症状を持つ患者達の中に共通して特有の痴呆性を見出したことから、それが一つの病気ではないかと推測し早発性痴呆と呼ぶことを提唱したことに、統合失調症の歴史は始まります。
 続いて、スイスの精神科医E・ブロイラーが早発性痴呆と呼ばれる症状の患者達が必ずしも痴呆に至るわけでもないことから名称を精神分裂病と変えます。現在、誤解を招く恐れがあるとして改称されたこの名称は、当時主流だった連想心理学(人の心は観念などの連想機能で構成されると考える理論)の影響で、この精神疾患の原因が心の連想機能が低下し、正常に働かなくなったことだと考え、精神分裂病と呼ぶようになります。
 統合失調症は、百人に約一人の割合で起き、ガンと同程度で多くの人に発病する一般的な病気です。原因は、遺伝要因や環境要因が挙げられていますが、単純に示すことができるものはありません。ただ、遺伝要因は一卵性双生児の不一致率が高い(同じ遺伝子を持っているにもかかわらず他の病気よりも、一卵性双生児がどちらも統合失調症にかかる確率が低い)ことが分かっていますので、遺伝するのでは?という心配は意味が無いことが分かっています。 
 かつては、不治の病のように見做されていたものの、現在は薬などの発達により、50~60%の人が日常生活に不自由のない程度に、さらに20~30%の人が介助者の支援で生活でき、慢性化し常に介助者を必要とする人は15~24%とされています。
 統合失調症は優勢な症状によって主に4つの病型に特定されます
 妄想を中心的な症状とする妄想型、効果的なコミュニケーションを損なうほど著しい会話の脱線・滅裂、日常生活に支障をきたす程の著しい行動の混乱・無秩序を中心的な症状とする解体(破瓜)型、過剰な運動性や逆の不動性・拒絶性などを中心的な症状とする緊張型、顕著な症状が無くなった後も持続的に軽度の症状が見られる残遺型、の4つです。
 
 この中で、ストーカーの心理類型と関係すると考えられるのは、妄想型ということになります。 (しつこいようですが、統合失調症を持つ人がストーカーとなる確率が高いのでも、ストーカー予備軍となるわけでもありません。警察統計では、統合失調症を含む精神病を持つストーカーは全ストーカーの内でも0,6%を占めるに過ぎません。)
 妄想とは“外的現実に対する間違った推論に基づく間違った核心であり、その矛盾を他のほとんどの人が確信しており、矛盾に対して反論の余地のない明らかな証明や証拠があるにもかかわらず強固に維持される”(DSM)もので、ストーカーとなった場合、他者の仕草を勝手に自分への好意の合図だと確信したり、相手との関係を周囲によって妨害されていると信じたりと、様々な妄想の内容があります。
 統合失調症の妄想型は、妄想を持っているものの、認知機能や感情が他病型より比較的保たれているため、恋愛妄想や関係妄想などに基づいてストーキングできてしまうと考えられます。
 ただし、比較的保たれている認知機能や感情によって逆に道徳や法律を認識できる可能性も、治療を受けている場合は薬で妄想をコントロールできる可能性もあり、ストーキングをすることもかなり難しいと考えられます(※4)。
 ストーカーの心理類型の精神病系は統合失調症だけではもちろんなく、他にも妄想を引き起こす精神病が考えられますが、心理類型の中心を(3)人格障害系と捉えるために代表的な妄想を症状とする統合失調症妄想型に止めます。

(2)パラノイド系について
 “《妄想》をもっているが、妄想以外の点ではまったく正常者と変わらない能力を保持している”“《パラノイド》には統合失調症の軽症方と見られる《パラノイア》と、特別の正確の人に心理的・環境的なストレスが加わって起こってくる《心因性パラノイド》の二種類がある”(福島)
 まず、《パラノイア》、つまり、妄想性障害から。
 妄想性障害は、統合失調症の妄想のように奇異ではない、実生活で生じうる状況に関連した妄想が少なくとも一ヶ月続き、基本的に、心理社会的機能の著しい低下が無く、妄想を口に出したり、行動に移したりしないと、そうとは気づかない精神疾患です
 妄想の主要な内容に基づいて、色情型、誇大型、嫉妬型、被害型、身体型の主に5つに分類されます。
 ストーカーの心理類型と関連するのは、色情型と被害型だと考えられます。
 色情型とは、他者が自分を好いていると言う妄想内容を持つ場合で、性的な魅力よりもロマンチックで精神的な関係に関するものが多く見られる。相手として有名人から全くの他人まである。
 被害型とは、自分が陰謀や監視、追跡や中傷や毒物混入の対象となっているとの妄想を持っている場合です。
 妄想性障害はまれで、人口の0.03%程度が持っていると考えられています。
 一見正常に見えること、社会的機能が低下していないことから、妄想性障害を持った人がストーカーとなった場合はかなり厄介だと言えます。
 公的機関に相談しても相手が妄想性障害だと気づかれなかったり、逆に訴訟を起こされたりする場合もあり、さらに、心神耗弱(刑法39条2項)として刑が減免される可能性があります。
 《心因性パラノイド》の《心因性》とはストレスやショックなどの心理的な影響を原因とするもので、そのような原因によって生じる妄想だと考えられます。(※5)
 
 長さの関係で、今回は(1)(2)で終わり、次回に本番とも言える(3)人格障害へと進みます。
 
 ※)『ストーカーの心理』(サイエンス社)P・E・ミューレン、M・パテ、R・パーセル共著 詫摩武俊監訳 安岡真訳
※1)『ストーカーの心理学』(PHP新書)福島章著
※2)『DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計のマニュアル』(医学書院)高橋三郎 大野裕 染谷俊幸 訳
※3)『統合失調症』(ちくま新書)森山公夫著 から統合失調症の歴史を
   『統合失調症』(講談社)伊藤順一郎監修 から回復率を
   参照し、DSMの資料と組み合わせています。
   犯罪率は、http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki17/taiou.pdfより
※4)社団法人 日本損害保険協会
  『予防時報209号・精神分裂病と人格障害』和田秀(川崎幸クリニック医師)著
  http://sonpo.or.jp/business/library/public/pdf/yj20914.pdf
   より、統合失調症を持つ人の刑事事件発生率の低さの原因についてを参照しています。
※5)心因性パラノイドについては、これ以上の資料が見当たりません。
   文字通り心因性で妄想を生じさせている場合をまとめて指していると考えられますが、はっ  きりしませんので、以降、パラノイド系と指す場合は妄想性障害を中心に考えます。
  

      
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by sleepless_night | 2005-07-23 00:32 | ストーカー関連