毎日新聞が英文サイトのコラムの件で改めての謝罪と検証の記事を掲載した。 ネット上での広報的な対応の不味さを加えても、私はほとんどこの件に興味はないし、意味がないと思っている。 意味がない、というのは二つの点で言える。 ひとつはコラムの影響という点、もうひとつは毎日新聞や日本の新聞が海外へ情報発信しようとする点について。 コラムの影響という点については三つのことが言える。 第一に、毎日新聞の存在も位置づけも海外で広く認知されているとは思えないこと。特に毎日新聞がクオリティ・ペーパーだとは思われていないだろうから、「日本人の名誉」云々に繋がるような話とはなりにくい(グーグルでnewspaper japan を検索すればJapan timesと朝日が1ページ目で出る。普通、日本の新聞を英語で読みたい人はそのどちらかを読むだろう)。 第二に、同コラムへアクセスする北米の人々で、面白半分の興味でコラムを読んでいる人々は日本に対してその程度の興味しかなかったのだからコラムが毀損できるような日本のイメージや利益がそもそも殆どなかった。日本について真面目に知ろうとする・興味があって情報へ継続的にアクセスしている・基礎知識があるような人々なら、この記事や翻訳元の週刊誌の位置づけはわるので、やはり毀損されるような日本のイメージや利益はほぼなかった。 第三に、もともと日本について海外で流される他の情報にもこの程度はある。なので、第二と同様に新たに毀損されたものは殆どないと言える。コラムを担当していた外国人記者もそんな「海外の日本情報」の感覚から書いたのだろう。 したがって、このコラムに憤りや屈辱を感じることは私はない。 無知だったりや偏見を持つ人々は、日本について特別にそうだというのではなく、無知であるにも拘らず正そうとする意欲を持たないことや偏見を持つこと自体に問題があるので、どこにいようが重要ではない。たまたま今回は、海外で日本について間違った情報から偏見に満ちたイメージを作り上げた人がいたかもしれないだけ。 毎日新聞や日本の新聞などの報道機関が海外へ日本の情報発信を担おうとする姿勢が無意味だというのは以下の小林雅一さんの指摘から分かると思う。 “必ずしも日本の政治・経済に魅力がない、というわけでもなさそうだ。ただ全体的に見た場合、やはり外国人特派員がこの分野の報道に熱心であるとは思えない。彼らが真剣に取材するのは、むしろ日本のいわゆる「社会ネタ」である。” “(外国人特派員の)話を聞きながらハッと気づいたのだが、彼らの仕事ぶりは日本の週刊誌の記者にそっくりである。日本のいわゆる「シュウカンシ」はいかがわしくて下世話で、その分、結構新聞なんかより面白いネタを掲載する。これは何故かというと、日本の記者クラブ制度から締出されているので、そういう特殊領域のネタを拾わざるを得ないからである。しかし考えてみれば、日本にいる外国人特派員もシュウカンシの記者とそっくり同じ境遇にあるのだから、両者の記事が似てしまうのも当然なのである。” “結局、一般的に言って日本にいる外国人特派員は、記者クラブなど閉鎖的な情報環境のせいで、政治などの日本の中核を伝える報道にはあまりやる気がない。その分野の報道は日本の新聞記事のリライトで適当にお茶を濁しておいて、むしろ面白おかしい社会ネタなどを一生懸命取材して、母国に書き送っているのである。” 『隠すマスコミ、隠されるマスコミ』(文春新書) そう、毎日新聞という日本ではそれなりに知られている「大新聞社」がいくら海外へ向けて発信したといっても、日本へ派遣されている先進国のアジェンダ・セッティングに影響を与えられるような報道機関の記者が取材でき、発信できることに比べれば限りなく無に近い。 日本の経済的停滞と新興諸国の急成長によって、彼らの日本に対する興味は高くはないだろうし、アジア取材の拠点が日本から移転されている現状を考えれば、特派員が日本から政治・経済を自由に取材できる環境から記事を発信する意味は低下しつつあるのかもしれないが、それでも毎日新聞が束になって「情報発信」することより遥かに効果があるだろう。 だから、毎日新聞が“新たに社説や「時代の風」など著名人による評論を翻訳して掲載し、海外の日本理解を深めるべく努めます。同時に西川恵専門編集委員を中心にベテラン国際記者らによるアドバイザリーグループを新設し、企画や記事の内容をチェックする体制をとります”と言うのは好きにすればいいのだけど、そんなことにコストをかけるなら、率先して記者クラブ問題を解決するほうが何百倍も日本の情報発信に資するし、ジャーナリズムにとって貢献する。 意味がないことだが、おそらく毎日新聞としてはかなり踏み込んだつもりなのだろうこの対応をとらせたのは、スポンサー離れの影響なのだろうか。 ニュース番組に出演しながらCM出演することが放置されながら、山本モナが野球選手と不倫という本当にどーーーーでもいい事が、番組降板・謹慎へとつながるこのマス・メディアとそれを支える視聴者の現状を考えると、記者クラブは死守されうるだろう(ニュース番組出演者のCM出演は報道の自由や視聴者への責任第一にすることに対する裏切りだが、不倫はニ岡の家族に対する裏切りにはなっても、報道の自由や視聴者を裏切ることになっていない)。 こんな下らない・影響力のないコラムをネタに毎日新聞へ粘着するくらいなら、自分の病気を出汁に(不払いのあった)保険会社のCM出ている毎日出身の鳥越俊太郎を何とかしてくれ、と思わずにはいれない。 重要な点が放置されて、どうでもいいことが大騒ぎされ、殆ど意味がない「改革」が行われる。 黒船が来ない限り、世界に対する情報発信を乗せた日本のマス・メディアはそんな感じで柳田邦男を艦首にくくりつけて沈んで行くのだろう。 * 追記 J-CASTが“国際的な反響”と言う記事の翻訳。 基本的には、私訳なので正確さを保証するものではない。 特に疑問がある部分や訳に迷った部分については、カッコ内に原文や単語を書いておいた。 “米名門紙の捏造事件を引き合いに出す米国メディア”の例として出されたブログGAWKERの記事 Made-Up Japanese Sex Stories.は ここに翻訳がある。 Bullshitと言う単語を出してくるメディアをテレグラフと並べるJ-CASTの勇気(?)を称えたい。 以下がイギリスのテレグラフとオーストラリアのヘラルドの記事。 なお、The ageの記事:Japanese set the blogs on’ sleazy Australian’ writer.(日本人はブログに低俗なオーストラリア人ライターを襲わせている)の著者もThe Sydney Morning Heraldと同じJustin Norrieなので、記事は言い回しを変えてあるだけ。J-CASTは、なぜ著書が同じであると書かなかったのか意味不明。 世界的に無名な毎日新聞の記事が与えたかもしれない日本の悪印象より、これらの世界的に有名な新聞によって伝えられた日本の状況のほうが日本への悪印象を広めたのではないかと私は印象を持った。 特に、Justinの記事は「野蛮な鯨殺し日本人ナショナリストが不注意な西洋人を襲っている」といった構図が見える。毎日新聞の近年の受け止められ方に触れられていないことも、リポートとして突っ込みの甘いものであることを感じる。(また、毎日新聞が世界で4番目の発行部数をもつ日本語新聞である、と述べているが、読売・朝日についで3位が正しいのではないか。基本的な事実を間違えているなら、記者の日本についての知識が知れる) 記事の言う殺害予告や2ちゃんねるの存在が、読み手であるイギリスをはじめとする英語圏の多くの人々にどう受け止められるのか。もっとも、それでさえライアンのコラムと同程度にしか興味を引かないかもしれないが、もし2ちゃんねるがイギリスにもあれば「痛いニュース」にスレットが立つだろうと思う。 * 日本の新聞が恥ずべきセックスコラムが間違いだと認めた。(Japanese newspaper admits infamous sex column was unture) 日本を代表する新聞の悪名高いセックスコラムが、その新聞が載せていた沢山のわいせつ話が嘘だと認めた後、中断させられた。 Telegraph by Matthew Moore ワイワイコラムは近親姦や獣姦や郊外の酒色についての多くの話を展開した。 英語で報じられた記事(stories)は日本の雑誌から実生活についての話を直訳したものとして提供されていた、しかし現在、毎日新聞は謝罪し多くが誤った情報を含んでいたことを認めた。 批評家(critics)はワイワイコラムが異常性欲者としての日本人女性というステレオタイプというプロパガンダを助長し、日本の国際的な評判を傷つけたと非難している。 コラムで報じられた多くの記事は掲示板(message board)やブログを通じて世界に広がった。 記事は日本の信頼ならないタブロイドを情報源とし、尊敬される毎日新聞の旗印の下に発表され信頼を与えた、と批評家たちは主張した。 社内調査は疑問視されているその多くのコラムの記事が掲示される前に殆どチェックされていなかったことに加え、問題の深刻さが社内で検出されなかったことを指摘した、と新聞は声明で述べた。 “これらの記事は…日本もしくは世界に対して発せられるべきではなかった。”と声明はつけ付け加えた。 “私たちは多くの人々を不快にしたこと、多くの人々の評判を傷つけたこと大変な迷惑を起こしたことと共に、毎日新聞への公衆の信頼を裏切ったことを深く謝罪します。本当に申し訳ありません。” そのコラムは現在毎日デイリーニュースウェブサイトから削除されている、そして女性編集者がそのサイトを運営する予定だ。 “私たちはこの出来事の結果失った公衆の信頼を取り戻すよう全力を尽くし、そして日本への日本についての情報を適切な態度で発信する英語サイトを修復します。” ワイワイコラムは2001年に印刷版から撤退していた。 * 日本がオーストラリア人の扇情的なバカ話をののしっている。(Japan rails at Australian’s tabloid trash) The Sydney Morning Herald by Justin Norrie 一人のオーストラリア人ジャーナリスト、ライアン・コネルが幸せに“夢の仕事”を日本でしていると宣言したのは、そう昔のことではない。 先週、ひどく立腹した日本の愛国者たちから警察の保護を受けて以来、毎日デイリーニュースの主任編集者はより慎重になった。 ここ一月、この39歳は日本でもっともののしられた人物になった、日本では何千もの張り紙がチャットサイトに溢れ、故意に世界の日本のイメージに泥を塗ったと彼らが思っている“低級なオーストラリア人ジャーナリスト”を非難している。 コネルの不幸は五月に今では悪名だかいワイワイコラムのひとつ、日本の六本木地区で常連客たちが集まって動物を食べる前にその動物とセックスするという日本の雑誌に載っていた記事に始まった。その一編がMozuと呼ばれるブロガーの注意を引き、彼の怒りの投稿は大規模で日本の保守現象を率いることで有名な気難しいウェブフォーラム2ちゃんねる(a massive,fractious web forum popular with Japan’s hot-headed conservative element)にすぐに拾い上げられた。 かんしゃくの引き金は引かれ、コネルと彼の家族への同調された攻撃で最高潮に達した。毎日新聞とそのスポンサーの幾らかは広告を引き上げ、それは二千万円以上と推定されている。 世界で四番目の発行部数の日本語新聞である毎日新聞は目立つ1277語の説明と謝罪を発した。それはそのコラムを終了し、幾人かのスタッフを懲戒しコネルを三ヶ月の懲戒休職(disciplinary leave)と述べた。 今週連絡をした時、コネルは「この件のついてのいかなる様相」についてもコメントできないと言った。しかしヘラルドは彼がいくつかの殺害脅迫を受けていることと、この件が下火になるまで東京郊外の彼の自宅に居ることとの警察の厳しい指示下にあることを分かっている(understand)。 1988年に毎日新聞へ奉職し始めて以来、コネルは日本のみだらさに満ちた週刊誌を漁り全くショッキングでしばしば本当らしからぬ大部分は情報確認の取れていない話を英語圏へもたらした。 多くの以前のマイマイの連載は、学校生活を犠牲にして女の子を追い掛け回すのをやめさせるために母親が息子を楽しませることについての話、同乗者を人目を忍んで虐待する最適の手法についての内情をやり取りする毎月の会合を開いている痴漢について、生きているようなマネキンを乳母のように扱う感情的に発育の妨げられたサラリーマンの話など、を世界の風俗話(world folklore)に入れていた。 “キャンパス内情:共同編集者は性交の特別カリキュラムを行う流行を集めている。(Co-eds Collect Currency Conducting Extra-curricular Coitus)”でコネルの最近のコラムのひとつは始まっている、それら全ては日本語から訳される前に、創造の逸脱と狂った頭韻(brain-melting alliteration)をもって、人種差別主義者のイギリス人の扇情的な話へとされた。 それらの西洋の読者の人気が特に日本のブロガーをひどく怒らせた。多くは彼らの国の評判が世界中で「堕落させられた」と感じた。「本当のことを知らない外国人たちはこられの話を本当だと信じてしまうだろう」とある者は書いている。別の人は「ライアン・コネルは退廃したスカトロジスト、典型的なオーストラリア人だ」とののしった。そして別の人は「どうして誰かオーストラリアに水素爆弾を落とさないんだ?」と不思議がった。 昨年のヘラルド紙のインタヴューでコネルは彼の転写したものは、日本人が全面的に厳しい社会的規範によって抑圧されていたから、かれらは奇怪なフェティッシュによって絶望的に面目を失わされる、という怠けた理解に幾分寄与するかもしれないと認めていた(In an interview with Herald late last year Connell admitted his transcriptions might have contributed in part to a lazy notion that if Japanese are not totally inhibited by their strict social codes,they are hopelessly debased by their bizzare fetishes.)。 「私たちがいつもこれらのステレオタイプに訴えることを私は憂慮している」と彼は言った。「踏みにじられたサラリーマン、性的にだらしのない女学生、狂った主婦、退廃した上司など。そして、書くのために正確さに疑問を感じる話をとり上げる時もあった。しかし全般的に私は日本人が自身について書いていることを英語圏に提供している」 コネルと彼の共編者同様に週刊を弁護するたゆまないメディア批評家で人権活動家Debito Arudouはワイワイが日本人の態度や編集指針へ必須の案内であると述べた。「あまりに多くの日本人は彼らが、日本語はある秘密の暗号かであるかのうように、日本語で彼らが好きなことを何でも言ってよいと信じている(国内の聴衆に対しての声明は公的な失言へのとてもよくある謝罪だ)」と彼は述べた。
by sleepless_night
| 2008-07-20 16:59
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